設計にあたり　考えること　　---設計はバランスだと考えています---


■住宅を例にしてみた場合■


１．空間のバランス
　新しい建て主とお会いし、まず多くの雑談の中から、その方（多くはご家族です）の生活スタイル・趣味・考え方を知り、そのご家族に最適だと考えられる空間のバランスを考えます。

　・”念願の書斎と庭の見える広いお風呂を”とおっしゃるご主人。
　・”家事のしやすいキッチンと家族が集まる広いリビングを”と切望なさる奥様。
　・”ネットが出来る個室が欲しい、８畳位！”と横からお子さんが希望をこっそり耳打ち。
　・実家の両親が泊まる和室には”床の間を作りなさい”と言われているとの伝言。

　これらをそのまま盛り込むと、とりとめの無い、とても居心地の悪い家になってしまいます。また、現実的に、よほどの敷地と資金に余裕が無ければ実現は不可能です。
　どういう順番で何が重要なのか。どこは諦めどこは実現させるのか。このバランスを考えていくことが、設計の最重要項目だと言っても過言ではないと思っています。
　逆にこの部分が家族の共有認識となるまで、いくつかのプランをもとにしっかり話合いを重ねると、その後の細かい設計がとてもスムーズになります。


２．性能的なバランス
　空間のバランスの考え方がクリアになってくると、次に建物の性能的なバランスを考えます。

　・構造は何にするか
　・断熱性能はどの程度を想定するか
　・窓はどの程度設けるか
　・自然素材にはどの程度こだわるか
　・ガスを使うかオール電化にするか
　・お風呂やトイレやキッチンはどのようなランクのものにするか
　・冷暖房はどう考えるか。

　例えば、”ご飯を作って食べる”ということを家の中心として考える、ということが空間のバランスの中で一番の項目だとすると、キッチンと大きなダイニングテーブル（そこでは、ご飯を食べるだけではなく、新聞を読んだり、宿題をしたり、アイロンかけたり、テレビを見たり、といろんな空間機能を兼ねることになってくると思います。）を置ける大きな空間を実現できる構造を採用し、その部屋を中心とした冷暖房計画を考え、そこは出来るだけ日光が入るように窓を計画し、トイレやお風呂よりもキッチンにお金をかけることとなり、本格的なプロ使用の厨房機器を入れるからもちろんガス！　といった具合です。


３．町並みとのバランス
　それ以外に私が大切にしているバランスは、周辺の町並みとのバランス。もともと町並みと呼べるほどの町並みはほとんど無い日本ですが、それでもあまりに突飛なものは好みではありません。違和感なくなじみ、それでも魅力的なものにしたい、といつも考えています。


４．予算の中でのバランス
　そして、現実的には非常に重要で毎回実は一番苦労するのが、予算の中でのバランスです。それまでの打ち合わせの中でベストだと思われる内容にまとまったとして、それがそのまま実現することは実はほとんどありません。このあと予算に合わせるために、もう一度トータルバランスを再確認し、内容をスリム化する作業が発生します。
　広い家、が最重要項目であれば、広さを変えずに後で作れる家具や収納は後にまわす。ものがスッキリすべて収納できる家、が一番であれば、逆に少し全体を小さくしてでも収納家具はしっかり作る。　等々。



　私はこれらのバランスを探っていく作業自体を、建物をデザインすることだと考えており、そのベストバランスを作ることが設計することだと考えています。